白書を読もう!~通商白書の使い方~
外部環境の変化をとらえる、新しい企画を考える、という時に必要なのが情報であり、情報を得るためには様々な情報ソースにあたっていく必要があります。その中で、政府の潤沢な予算と統計データをもとに作成された「白書」は信頼性が高く、情報量が豊富で、かつ無料で手に入れることができる一級の資料と言えます。
本稿では、そうした白書の中から、通商政策を中心としたデータ・分析が掲載されている通商白書の読み方を解説していきます。
通商白書とは?
通商白書は経済産業省が発行する通商政策についての報告書であり、法律で作成義務が設けられていない非法定白書に分類され、毎年閣議に提出されています。白書類の中でも最も歴史があるものの一つで、1949年から発行されていて、過去の白書のテキストデータが国立国会図書館のデジタルライブラリーで公開されているため、遡って読んでいくことができます。
経済産業省が所管する白書には他にものづくり白書や、外局の資源エネルギー庁が発行するエネルギー白書、中小企業庁が発行する中小企業白書及び小規模企業白書があります。それらの中で、海外関連の事象を中心に扱うのは通商白書のみです。そのため、通商白書は貿易という狭い範囲のみならず「国際経済動向や通商に影響する諸外国の政策の分析を通じて、通商政策の形成に貢献するとともに、国民等に対して通商政策を基礎づける考え方や方向性を示す」とされているように海外の経済状況等を含めた広い範囲の知見を提供するものとなっています。
一般の書店でも販売されている他、オンラインで無料公開されています。要約版も、図表中心の要約である「概要版」と、文字中心の要約である「エグゼクティブ・サマリー」の2種類、用意されているので、詳細の内容を知りたい人にも大体の内容だけをつかみたい人にも利便性が高くなっています。また、著作権法32条2項で定める「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物」として、例外的に著作権が制限されるため、著作権を気にせずに使うことができることも利便性の高い点です。
オンライン版にはPDF版とHTML版があり、紙で印刷をするならばPDF版、ブラウザーでみるならばHTMLで見るのが見やすいです。また、HTML版では、掲載されている表をExcel形式でダウンロードできるという、資料作成の参考として読まれている方には有用な機能がついていますので、是非活用してみましょう。
通商白書2021の内容
表1
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第1部 コロナショックからの回復を続ける世界経済 |
第1章 我が国を巡る経済情勢と今後の通商を巡るトレンド 第1節 コロナショック後の世界経済 第2章 主要国の経済動向と経済政策・成長戦略 第1節 回復途上の米国経済 |
第2部 通商を巡る課題とその克服 |
第1章 レジリエントなサプライチェーンの構築に向けて 第1節 アジアワイドのサプライチェーンの変化 第2章共通価値を取り込む新たな成長の要請 第1節 サステナブル・インクルーシブな未来社会に向けた企業行動への期待の高まり 第3章 信頼あるグローバルバリューチェーンの構築に向けた対応 |
第3部 施策編 |
第1章 ルールベースの国際通商システム 第1節 G7/G20 第2章各国戦略 第1節 米国 |
通商白書2021の目次は表1の通りです。
第1部では、コロナ禍からの経済の復活状況と各国(米国・欧州・中国・日本)の経済状況分析を中心とした時事的話題、が記載されています。例えば、下に示す表2のようにコロナ禍で米国では起業がむしろ増えたことや、中国における合計特殊出生率・都市部求人倍率・省別の一人当たりGDP等、通商政策に留まらない幅広いデータが含まれているため、各国市場における外部環境分析の基礎資料として使いやすい内容といえます。
第2部では、通商政策の重要論点(レジリエントなサプライチェーンの構築・共通価値を取り込む新たな成長・信頼あるグローバルバリューチェーンの構築に向けた対応)について、記載されています。
「レジリエント(強靭)なサプライチェーンの構築」には、まずサプライチェーンの分散が必要です。東日本大震災やコロナショックのような自然災害でサプライチェーンが寸断されるのを防ぐ必要があるためです。また、デジタル技術の活用によるサプライチェーンの統合、ブロックチェーン等の技術を活かしたデジタルプラットフォームによる貿易円滑化の取り組みによりサプライチェーンの効率化・強化が図られています。
例えば、サプライチェーンの分散としては、中国から製造拠点を東南アジア等に移転する動きや、調達先の現地化を進める動きがありますが、通商白書には、表3のように、業種ごとの日系現地法人の調達先の推移データ等が含まれていますので、自社で現地法人を運営している、あるいはそうした現地法人を得意先としている場合は、こうした情報を経営計画に活かしていくことができます。
また、デジタル技術の活用については、以下表4のような枠組みを知ることで、業務改革のトレンドを把握することができます。
「共通価値を取り込む新たな成長」、とはいわゆるSDGsであり、「信頼あるグローバルバリューチェーンの確立」とは経済安保・環境保護・人権保護の3つを柱とした共通の価値観に基づくバリューチェーンを構築していくことです。
近年、環境・人権等に対する社会的要請が強くなっています。また、欧州を中心にデジタル関連の規制の策定が進んでいます。
例えば、人権上の要請により小売企業がウイグル綿の使用を取りやめた場合、メーカーや下請け工場もそれに従う必要があり、こうした規制への対応は大企業のみならず中小企業にとっても課題です。
白書の内容は経済産業省が把握している状況であるため、信頼性が高く複雑かつ変化の激しい規制の状況を確認するのに適した資料であると言えます。
第3部ではG7やWTO等の枠組み毎の直近の動きや、各国・地域における通商政策及び日本との間の交渉状況が記載されています。
個々の動きについては、ニュースで報道されているのを見聞きすることができる場合があるものの、全体を把握しておくのは至難の業です。国際ビジネスに関わっている人は、自分の関わっている国・地域の情報を通商白書で確認すれば、各国の通商政策でどのような変化があったか、最新情報にキャッチアップしていくことができます。また通商白書は、備忘用の資料として、あるいは顧客への説明資料として使うことのできる内容と言えます。
まとめ
ここまで、通商白書の概要と2021年版の内容を紹介してきました。国際ビジネスに携わる企業にとっては、最新動向を知る手掛かりとして、あるいは資料集として役に立つ内容であると言えます。通商白書は毎年6月~7月に閣議提出されていて、2022年版も近く提出される見込みです。是非読んで皆様の事業に役立ててみてください。
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