ビジネスとSDGsの両立事例 中小企業編
1.よくある誤解 その1「SDGsなんて大企業さん向けの社会貢献でしょ?」
2020年10月、菅前総理大臣は所信表明演説において、日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。また、「野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」とも表明しました。
最近、大企業やメディアを中心にSDGsへの取り組みに拍車がかかっているのは、このことによる影響も小さくはありません。
一方で、いくら政府や大企業が注力をし始めているニュースが流れていても「そのうち消える一時的な流行じゃないの?」と様子見を決め込んでいる中小企業経営者も多いのではないでしょうか?
しかし、残念ながら、これは菅首相が一人で考えて言いはじめたことではなく、欧米を中心にした世界的潮流となっています。つまり、一過性の流行で終わることはまずあり得ないと言えるでしょう。SDGsで設定されている17の目標は、いずれも私たちの日常生活や経済活動に密接に結びついているものばかりです。つまり、これは事業規模に関係無く全てのビジネスに共通するテーマであり、中小企業においても同様に大きな影響があります。
例えば、ハイブリッド車が生まれて20年になりますが、EV車なども合わせた日本国内のシェアは約40%にもなっています。また、携帯電話が生まれて30年になりますが、スマホやタブレットへと進化し、私たちの生活を急変させました。このようにSDGsも中長期的なトレンドとして避けられないものになると言われています。つまり、私たちも経営者として、一人の生活者として世界の価値判断基準が変わるのだと認識する必要があります。
一方で、一日でも早く取り組むことがアドバンテージにもなりますし、逆に先送りすることによって、突然、取引先から受注できなくなったり、融資を受けられなくなるリスクもあるということをイメージしておく必要があります。
①いま、なぜ国内大企業がSDGsに一斉に本腰を入れ始めたのか?
菅前総理大臣の所信表明演説も影響は大きいですが、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催機運も関西中心に高まってきています。そのメインテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」と設定されており、多様性と包摂性のある社会を実現することを究極の目的としています。まさにSDGsの考え方と合致しているわけです。この万博に向けて各方面での発生する経済効果が、アフターコロナの目玉として期待されており、大企業は、そこにビジネスチャンスを見出しているのです。
以下のグラフは、全国の20~69歳の男女個人を対象にしたSDGsの認知度調査の結果です。
グラフを見ていただいた通り、「聞いたことはある」と「詳しく知っている」が年々増加し、過半数に近づいています。2021年12月の朝日新聞の調査では「聞いたことがある」が76.3%と急激に増加しています。
2.中小企業の取り組み事例(関東経済産業局WEBサイトより)
このような社会変化をすでに取り入れている中小企業もあり、大企業に先んじて自分たちのビジネスに取り込んで成功させています。では、遅れを取らないためにはどうすればよいのでしょうか?経済産業省も注目している中小企業の事例について見てみましょう。
① 【長野県】株式会社水島紙店(https://tesageya.net/company)
株式会社水島紙店は、創業1946年、従業員数14人。老舗の卸売り問屋です。同社は、長年に渡り商社として活動してきましたが、一転して、ウェブサイトでオーダー手提げ袋制作事業「手提屋(てさげや)」を立ち上げました。長野県の他の企業との連携を通じて、自然や観光など長野県の地域ブランドイメージアップに取り組んでいます。
この新しい取り組みのきっかけは、新聞などの印刷用紙の需要減退によって業績が低迷しており、何か新しい取り組みを行う必要がありました。そんな中、廃プラスチックの海洋汚染問題に起因する世界規模の脱プラスチックの動きを知ったことから、オーダー手提げ袋制作事業「手提屋(てさげや)」をスタートさせるに至りました。
長野県において紙袋を専門に制作する企業がなかったことから、同社は、「紙のプロとデザイナーがお客様と対面で制作するオーダー手提げ袋」というコンセプトでこの新規事業を展開し、好評を得ています。「社会課題を機会と捉え、自社の強みを活かして解決する」というビジネスの基本に忠実に展開しており、何か、特別なことをしたわけではありません。また、大きな投資やボランティア事業を行っているわけでもありません。単に、新規事業のきっかけをSDGsの切り口から発見したにすぎません。
具体的には、店舗で使用する袋をポリから紙に切り替える「紙袋プロジェクト」を行い、3か月の間に100店舗を訪問。(飲食業、建設業、農業、食料品や雑貨、衣料品などの小売業)創業期以来となる販路開拓に成功しました。その要因は、SDGsの切り口が強い後押しとなったと言います。今後もデザイン性、強度や防水などの機能性、コストの課題など現場の声に耳を傾けながら紙袋プロジェクトを継続する予定です。このプロジェクトが進むことで達成できるゴールは、“No.12つくる責任つかう責任”、“No.14海の豊かさを守ろう”、“No.15陸の豊かさも守ろう”、“No.17パートナーシップで目標を達成しよう”としています。
②何から取り組めばよいのか?
今回ご紹介した水島紙店の事例で言うと、削減機運が高まるポリ袋に対して、もともと自社の得意領域であった紙製品で代替ができないか?またさらに顧客体験価値を高めるようなことができないかと考察をしたことから始まっています。簡単に言うと自社の製品・サービスを買ってくれる新しい顧客を探し、その顧客ニーズに合致するように製品改良を行っただけなのです。
まず第一歩として、あなたの会社のみなさんと一緒にSDGsの17のゴールと自社の強みについて考える場を設定してみてはどうでしょうか?そして、ヒントを得た取り組みを自分たちにしかできないことや、自分たちこそが取り組むべきことへとブラッシュアップできれば、より価値を高めることができそうです。
このように、関東経済産業局のWEBサイトには、他にも中小企業等の事例が掲載されており、SDGsを活用して企業価値向上や競争力強化を実現している事例を知ることができます。自社に近い業種業態や業歴、組織体制などの事例から、今後の取り組みに対する気付きやヒントを得ることができそうです。ぜひ参考にしてください。
関東経済産業局:https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/sdgs/sdgs_senshinjirei.html
3.まとめ
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。今回は、ビジネスとSDGsの両立というテーマでお話をしましたが、いかがでしたでしょうか?このように、最近では「ビジネスとSDGsは切っても切れないものである」とよく言われますが、どちらかというと「社会課題をまとめたSDGsにはビジネスのヒントがたくさんある」ということをお伝えしたつもりです。
もし、みなさまのビジネスが顧客に喜んで受け入れられており、長年続いているのであれば、自分たちが気づいていないだけで、SDGsの考え方にかなっているはずです。また、新しく始めたばかりの事業であれば、SDGsの観点でビジネスモデルの構築をすることで、きっとお客さまに長く愛されるビジネスとして成長できることでしょう。
今一度、自分たちのビジネスがどちらに当てはまるのか確認してみてください。次回は、ぜひ、あなたのビジネスにもご一緒させてください。
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