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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第80回)

どうして高価格でも売れるのか!?
(株式会社WONDERWOOD)

どうして高価格でも売れるのか!?(株式会社WONDERWOOD)

前回、商品を再定義する作業は大事だという話をしました。畳がテーマでしたね。和室をしつらえる家が少なくなっていくなかで、「そもそも畳とはどうあるべきか」をゼロから考え直し、21世紀の住環境にぴたりとはまる新商品を編み出すまでのプロセスをお伝えしました。

商品の再定義という意味では、この連載でいいますと、第2回の「デアルケ200%トマトジュース」もそうです。「トマトジュースとはどういう味であるべきか」から開発が始まりました。また、第14回の「WHILL」も同様です。これは「電動車椅子はどんなかたちでどんな機能であるのが最善か」を見定めた話でしたね。まだあります。第18回の「IBUKI」では、樹脂製グラスのあり方を改めて模索しました。あるいは、第39回の「トーダン」では、市場縮小傾向にある紙のカレンダーには元来どのような存在意義があるのか、根本から考え抜いた経緯を紹介しました。第75回の「エニシング」では、日本古来の前掛けをどう使えるかに着目したからこそのヒットだとお伝えしています。

こうみていきますと、わかることがありますね。成長分野とは必ずしもいえない成熟商品の領域にあっても、商品そのものの再定義を独自になすことによって、その商品が突如として光を放ち始めるんです。別の表現を試みましょう。消費者のニーズがたとえ顕在化していなくても、ヒットを呼び込むことはできるという話でもありますね。「この商品には、実はこういう意味があるんです」という訴求によって、消費者の意識の奥底に潜んでいた購買欲求(「インサイト」といいます)を掘り起こせるわけです。

で、今回のテーマはまな板です。キッチンで毎日のように使う、あのまな板。成熟分野もいいところですよね。そんなまな板ですが、それほど名の知られた企業ではない(しかもキッチン小物の専門メーカーでもない)の商品にもかかわらず、たびたび品切れになるほどの人気を巻き起こしているという、ちょっと不思議な話です。

しかも、値段が高いんです。最も小さなサイズでも1万780円。いったい何なのか。順番にご説明していきましょう。

国産の木材を扱うプロ集団が…

どうして高価格でも売れるのか!?(株式会社WONDERWOOD)

このまな板、商品の名は、そのものずばりの「MANAITA(まないた)」といいます。国内に根づく樹齢100年以上のイチョウを切り出したまな板で、2018年の発売以来、毎月コンスタントに300枚は売れていて、現在は品薄状態が続いているほどだと聞きます。ひとつが1万円を超えるまな板がそこまで売れているというのは、やはり異例ではないかと感じさせます。

企画から販売まで手がけているWONDERWOODは、東京・世田谷に本拠を構える企業です。社業の主軸としているのは、天然木のテーブル。天然乾燥した国産材だけを採用し、テーブルとしてユーザーの手に渡ったあとも木が呼吸できるように、化学的なウレタン塗料は使わず、天然のオイルで仕上げているらしい。

そんな、木を扱うプロ集団が、キッチン小物であるまな板の開発に臨んだということですね。でも、なぜわざわざまな板だったのか。同社が扱うテーブルやカウンターに比べれば、(まな板としては高価ではありますが)単価も低いですし、そこには決断が必要だったのでは?

代表はこういいます。

「僕らの会社の目的のひとつに『職人さんに適正な金額で仕事をなしてもらい、適正な価格でそれを世に出す』ということがあります。この『MANAITA』の発想もその範疇です」

さらにこうも語ってくれました。

「『適材適所』という言葉があるじゃないですか。これってもともと『人』の話ではない。『木材』での話なんです」

どういうことなのか。ありとあらゆる木材には、文字通りの適所、つまり使い道があるというのですね。風呂場にはヒノキ、大黒柱にはケヤキというようにです。ならば、まな板にぴたりと合う木材だってある、というわけです。どんな木材を素材にしようと決めたかは、もう少しあとに伝えますね。素材選定の話より前に、なぜ、木のまな板であることが大事なのか、まずはそこを確認しておきましょう。

「まな板といえば、毎日触る商品です。それが樹脂製なのか、木なのか。たった1日の話であれば、わずかな違いでしょうけれど、1365日と考えれば大きな差がそこに生まれるのではないか」

前回の畳の話では、あえて素材にい草ではなく樹脂を採用したことで、開発者がめざした商品像を見事に結実させていますが、今回のまな板では木を使うところに価値を見出そうとしたというわけですね。“正解”というのはその商品ごとにあるのだなあ、と改めて感じさせます。

まな板はどうあるべきなのか?

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同社の代表は、ここから考えを巡らせたといいます。

「まな板にそもそも求められる要素を、ゼロから見直そうと決めました。開発はそこから始まりました」

なにが求められると結論づけたのでしょうか。

料理を楽しくできる。それだけでしょう

なんともシンプルな話ですね。ただし、楽しく料理できるとはどういうことか、そこもさらに突き詰めていく必要がありそうですね。

「まさにそうです。私たちはこう考えました。たまの休日などに思い立つような趣味の料理ではなくて、毎日の料理を楽しく、を狙いに据えたんです」

それが果たせたら、なにが生まれるのか。

「やらないといけない義務のような料理が、やりたいことに変わります。つまりは、そんなまな板をつくろうと決めました」

そういうことなのですね。義務が楽しみに一変するというのは、確かに重要な話です。それが叶うなら、商品の値が張ったとしても、少なからぬ消費者が振り向いてくれそうな気もします。ただ……まな板というのは、形状や色など、既存商品との違いをはっきりと消費者に伝えきるのは難しい分野ではないでしょうか。たいがいが似たようなデザインですから。

なぜイチョウを素材に選んだのか

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では、代表は次にどう動いたのでしょうか。

「国内で育った樹齢100年以上のイチョウを使うことを決めました」

それはなぜ?

「素材の原価や職人さんの仕事に見合う価格をつける、といっても、一般の消費者にぎりぎり買ってもらえる水準にしないといけません。そうなるとイチョウという結論になります」

もう少し具体的に聞くと、こういうことだそうです。消費者もなんとか手にすることのできる価格に収めるには、素材として使える木の選択肢は2つでした。木曽ヒノキ、もしくはイチョウです。抗菌性、耐水性、刃あたりの優しさまでは、木曽ヒノキとイチョウは共通しています。決め手は残りひとつでした。それは復元性。イチョウは傷が入っても戻りやすいそうです。こうして使う木は決定しました。まさに「適材適所」を見出したのですね。

でも、先に触れたように、イチョウを素材に選んだとしても、最も小さなサイズで1万円越えとなるのは確実でした。人は本当に、まな板にそれだけのお金を投じてくれるのか。ただ単に「天然木を用いたまな板です」と謳っても、おいそれとは購入してくれませんよね。

「ここから商品の完成に向けて、3つのポイントを徹底させました」

3つとは、なんだったのでしょうか。

決め手になったのは意外にも…

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「ひとつは軽さです。次に触感でした」

ああ、これはわかりますね。毎朝毎夕使うものだからこそ、取り回しのしやすい軽さは大事になってきます。そして木ならではの触感も、それこそ1年365日、手にするとなれば、きわめて大きな違いとなって現れる。

ページ冒頭に載せた画像をご覧いただけるでしょうか。この「MANAITA」、手前と奥がカーブを描いているんですね。手に取ると優しい感触です。こういうところは確かに大切な要素ですね。

で、最後となる3つめのポイントです。それはなんだったのか。

「音なんです」

音ですか? それ、どういう意味なんでしょう?

「包丁の当たる音が良ければ、そこにいる家族の関係もまた良くなる。そう考えました」

ああ、なるほど……。硬くて耳に障る音なのか、それとも心地よい音なのか。それは料理する本人にとっても、そばにいる家族にとっても、実は大きな差になってくるところですね。キッチン周りの雰囲気すら左右するかもしれません。

物語を紡いだのは、誰なのか?

どうして高価格でも売れるのか!?(株式会社WONDERWOOD)

実際に「MANAITA」を使ってみると、包丁で食材を切りつけるごとに、軽やかで耳にもやさしい音がするんです。商品の見た目だけではわかりませんけれど、これは決定的な訴求ポイントですね。そして、こうした品質というのは、意外なほどにクチコミに乗りやすいともいえます。たとえメーカーの側が力説しなくても、使い手(消費者)の側がみずから語りたくなるものですから。

私、つねづね感じていることがあります。商品のヒットを狙う場面で、しばしば「その商品の『物語』を伝えよ」といわれますけれど、企業の側が「物語」を懸命に力説すればするほど、消費者はしらけてしまうという側面は否めない。だから私は、「企業が、物語を無理に創出するべきではない」と確信しています。物語を紡ぐべき存在は、企業ではなくてあくまで消費者なんですね。消費者が自発的にその商品を語るからこそ、説得力をもってクチコミが拡散する。企業の側は、消費者が物語を紡ぐにあたっての「事実」だけを淡々と伝えればいいんです。

WONDERWOODは、この「MANAITA」の発するやさしい音について(あるいはその素材やデザインについても)、同社のウェブサイト上でまさに淡々と短いテキストで伝えているのみです。これがいい、と私は思います。だからこそ、諸費者の側に物語を紡ぐ余地をもたらし、結果としてクチコミに乗り、異例ともいえるヒットにつながったのではないでしょうか。

プレゼント需要をしっかり掴む

どうして高価格でも売れるのか!?(株式会社WONDERWOOD)

「ここまで『MANAITA』が売れるとは、僕ら自身、予想もしていませんでした」

代表はそういいます。でも、打つべき手をきちんと打っているのも事実です。このページの上から2番目の画像をご覧ください。プレゼントに好適と感じさせる包材を採用しているのも、この商品の特徴です。実際、親しい相手への新築祝いですとか、工務店が施主に贈る用途ですとか、消費者が自分自身のために購入する目的以外でのニーズも掴んでいるようです。それもまたヒットの一因でしょうね。

ここまでの話をまとめます。まずなにをおいても自社が扱う素材を生かそうと判断し、そのうえで商品の再定義に挑んだ結果、「音」という大きな要素を発見した。さらには包材ひとつにも心を砕いて、消費者が購入行動に踏み切るためのヒントも与えている。それらすべてが功を奏したと考えられます。また、先ほど触れたように、同社自身が物語をことさらに強調しすぎていないのも大きかったと私は思います。

まな板ひとつからも、そこに暮らす家族を幸せにすることができる。そう信じて動いた結果です

代表はそうも語りました。どうですか。もう新機軸など打ち出せないと思われがちな成熟商品の領域からでもヒットを生めるということが、ご理解いただけましたでしょうか。それを成就させるには、やはり「商品の再定義」が肝要です。そして、一見するだけでは高価格と思われる値づけであっても、それが必ずしもマイナス要因になるとは限らないという話でもありますね。

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