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  • 2021.06.03

行動経済学から考えるマーケティング戦術

行動経済学から考えるマーケティング戦術

「行動経済学」をご存じでしょうか。経済学の数学モデルをベースとし、そこに心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法であり、学問です。2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞した際にも話題になったので、関連書籍を読んだことのある人もいると思います。

「行動経済学」からは、ビジネスに適用可能な示唆が多く得られます。この記事では、いくつかの行動経済学の研究成果を参照しながら、それらをマーケティング戦術に応用する方法についてご紹介します。

人はあらゆるものを相対的に判断する

何か物事を判断するとき、みなさんは「絶対的な価値」をベースに考えることができているでしょうか。できている、という人もいるかもしれませんが、行動経済学の研究結果によると、人は「絶対的な価値」ではなく、「相対的な価値」に基づいて、あらゆるものを判断する傾向にあるそうです。

これをマーケティングに適用している例として、某新聞の購読プランを見てみましょう。新聞紙面を購読する場合は月額4,900円。パソコンやスマートフォンなどで閲覧できる電子版は月額4,277円。そこに、新聞紙面+電子版のセット月額5,900円が加わった3つのプランが並べられています。このように相対的な価値を比べられる工夫を施すことで、本来であれば新聞紙面や電子版だけで十分な人であっても、「相対的なお得感」を最も感じられるセットプランを選ぶ可能性が高まります。

「相対的な価値に基づいて判断する」ことを示す有名な行動経済学の研究成果として、「3つの価格帯があったとき、その真ん中を選びやすい」というものもあります。松竹梅のプランが用意されていると、なんとなく竹を選んでしまう。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

これもマーケティング上の「価格戦略」に流用できます。もし今、3,000円と10,000円の2つの価格帯が用意されているとしたら、そこに5,000円の価格帯を加えてみましょう。たったそれだけのことで、行動経済学の観点からは顧客単価の向上が期待できるのです。

さらに、人は「相対的な価値」に頼る傾向があるので、「比較がしづらく価値を判断しにくいものを選択肢から外す」傾向にもあるとも言われます。この研究成果から得られるマーケティングへの示唆のひとつは、「比較がしやすいような広告宣伝活動を行うことが有効」ということです。

例えば、「従来商品よりも満足度〇%UP」という宣伝文句を見たことはないでしょうか。こうして何かと比較してくれると、消費者としてはその商品に魅力を感じやすくなります。仮に、他社商品と比べて絶対的な価値で劣っていたとしても、自社の従来商品よりも相対的に優れていることを訴求することで、なんとなく価値が高そうだと思ってもらえる可能性が高まる、ということです。

このように、「絶対的な基準をベースに判断する」のではなく、「比較をして価値を見定める」という傾向を知っているだけで、様々なビジネスの場面で応用ができるでしょう。

人の行動を縛る「アンカリング」を利用する

「アンカリング」は人間の認知バイアスのひとつで、「最初に見たもの、提示されたものの特徴や数値、価格などに引っ張られ、後に見るもの、提示されるものの判断がゆがめられる」というものです。自分で絶対的な価値を見定めている、あるいは相対的に公平に判断しているつもりでも、知らず知らずのうちに「最初に見たもの、提示されたもの」に大きな影響を受けてしまう傾向にあります。

このバイアスを知っているかどうかも、マーケティング戦術の選択に大きく影響を与えます。一例として、新商品や新サービスを展開することを考えてみましょう。新商品の認知度を高めるために、期間限定で安価な価格として売りだすことは,行動経済学の観点からはあまり得策ではありません。最初に安い価格の印象を与えてしまうことで、その商品・サービスに対して顧客が感じる価値も一緒に落としてしまうリスクがあるからです。

このことからも明らかなように、「商品・サービスの絶対的な価値」と「顧客が実際に感じる価値」とは、別のものであるといえます。「顧客が実際に感じる価値」は、企業側が最初に提示する価値(価格)の影響を大きく受けるということは、マーケティング施策を検討する上で意識しておくべきことだと思います。

「無料」の力は非常に強い

行動経済学から考えるマーケティング戦術

人は、何かを得られないことよりも、何かを失うことを恐れるとされています。「無料」は、「何も失うことなく何かを手に入れられること」であり、実際よりも多くの価値をそこに感じる傾向にあるようです。

これをマーケティングに当てはめてみましょう。例えば、「1,000円のものを2つ買うと50%値引き」とする場合と、「1つ買うともう1個無料でついてくる」とする場合とでは、後者のほうがより多くの売上を見込めると考えられます。

他にも、「5,000円以上の購入で配送料無料」、「3,000円以上の購入で駐車場代が無料」、「10,000円以上購入された方全員に、オリジナルエコバックを無料でプレゼント」など、集客・販促の方法として多くの場面で活用されています。

シンプルですが、非常に効果の上がりやすい施策です。もしまだ試したことがなければ、一度やってみる価値はあると思います。

人は選択肢を残しておきたいし、判断を先延ばしにしたい

何かを決めることで、何かを失う。あらゆる場面でこのトレードオフはありますが、人は、できるだけたくさんの選択肢を残しておきたがる性質を持っています。先ほど「人は何かを失うことを恐れる」と紹介しましたが、それは将来の選択肢についても同様であるということです。

では、この性質をどうマーケティング戦術に利用するのがいいでしょうか。例えば、購入を促すために、「期限を設ける」というのも一案です。

「いつでも購入できる」状態であれば、今購入することで「購入しない選択肢」を自ら消すことになってしまいます。一方、今購入しなければ、「購入する・購入しない双方の選択肢」を将来に向けて残して置けるので、「それならば購入しないで選択肢を残しておこう」と考える人も多いでしょう。

それが、購入期限を設けた場合、購入することで「購入しない選択肢」を消してしまう状況は変わりませんが、購入しない場合にも、期限が来てしまえば「購入するという選択肢」を失うことになります。「購入しないほうが選択肢を残せる」という状態を解消し「どちらを選んでも選択肢を失う状況」に顧客を置くことで、購入するかどうかをフラットに判断できることになるのです。結果として、購入期限を設けない場合に比べて購入してもらいやすくなるでしょう。

「購入しないことが選択肢を残すことになる」という状況を作らないことが、マーケティングの観点としては重要と言えます。

予測・期待の効果は価値判断に大きく影響する

人は、事前情報を与えられているかどうか、予測や期待を持っているかどうかで、製品やサービスに対しての見方、解釈が変わります。

例えば、「ミシュラン常連のお店」や「食べログ星4以上のお店」という前評判を聞くだけで、そのお店の料理を少し高く評価してしまうことがあるでしょう。また、素材や調理方法へのこだわりなどをあらかじめ伝えることや、内装の雰囲気、盛り付けの工夫、食器のデザインなどを通して「期待感」を醸成することで、顧客が感じる価値を高めることが可能となります。

「事前に伝える情報を工夫することによって製品やサービスの価値を高められる」というマーケティング上のヒントが、行動経済学の中から見えてきます。

人の行動心理を踏まえたマーケティングを

行動経済学の研究結果をもとにしたマーケティング戦術についてご紹介してきました。
人は、意思決定において絶対的な価値基準を持っているわけではなく、さまざまな要素の影響を受けます。

  • 相対的に判断するという人の性質を利用できているか?
  • アンカリング効果を念頭に置いて、新サービスの展開プランを考えられているか?
  • 「無料」の魅力を活用できる方法はないか?
  • 選択肢をあえて狭めることで顧客の購買行動につなげられないか?
  • 事前情報を上手に摺り込むことで顧客が感じる価値を向上できないか? 


これらの要素を踏まえるだけでも、この記事でご紹介したようにさまざまなマーケティング施策を検討できます。
マーケティングにも絶対的な正解はありません。だからこそ、試行錯誤が大切です。「人の行動の癖」に焦点をあてたマーケティング戦術を、一度実践してみてはいかがでしょうか。

松本 崇

松本 崇

PROFILE

ライター、コンサルタント
福岡県出身。東京大学経済学部卒業後、大手不動産デベロッパーに入社。オフィスビル部門にて営業や事業企画を担当した後、J-REITのIR室長として投資家コミュニケーションに携わる。

2020年中小企業診断士登録。
同年pfworkを創業。専門性と複業を特長として、企業の経営支援・プロジェクト支援に取り組んでいる。

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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