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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第57回)

新製品へのヒントを見逃さない!
(フットマーク株式会社)

新製品へのヒントを見逃さない!(フットマーク株式会社)

商品を新たに生み出すには、そこに必然性があることこそが大事なのかも……。今回は、改めてそう感じさせてくれた事例をお伝えしましょう。

Table with(テーブルウィズ)」という名で、値段は5500円。東京・墨田区のフットマークという会社が2018年に発売した商品です。プリーツ加工を施したストールのような形状で、上の画像のように、首からかけて使います。要は食事のシーンで使うためのエプロンなんですが、服の上にこうしてかけても違和感のない色合いとデザインですね。

ずいぶんニッチな商品と思われるかもしれません。でもこれ、発売後たちまち品薄状態となり、例えば東銀座にある歌舞伎座の売店だけでも、コロナ禍の前までは月に30枚ほどがコンスタントに売れてきたといいますから、立派なヒット商品だと思います。
なぜ歌舞伎座で?
大事な和服を食事どきに汚さないためですね。もちろん、上の画像にあるように、洋装と合わせてもいい。デザインといい、機能性といい、うまいこと考えた商品だと感じさせます。

で、ここからが大事なところなんですが、どうしてまた、こんな商品を同社が世に出したのか。担当者に聞いてみると、1960年代にまで話がさかのぼるというのですね。半世紀以上も前ですか……。ここから順番にお伝えしていくことにいたしましょう。

主力商品に、未来はない?

新製品へのヒントを見逃さない!(フットマーク株式会社)

半世紀以上前、同社が主力としていたのは、赤ちゃんのおむつカバーでした。当時は布のおむつが一般的でしたから、小さな子どものいる家庭には、おむつカバーは必須の商品であったわけです。
ところが、このおむつカバー、夏場に売り上げが減るのが泣きどころでした。暑い時期は洗濯すればすぐに乾くので、予備のおむつカバーが要らないのですね。

さらには……1960年代後半から、紙おむつが徐々に市民権を得てきました。これは同社にとって極めて深刻な脅威となります。紙おむつが普及すると、おむつカバーは全く不要となってしまいますからね(実際、現在はそうなっています)。

このままでは会社の存続が危ぶまれます。手をこまねいている時間はそうない。同社の代表が目をつけたのは……。
水泳帽だったというのです。なぜまた突然?

「夏場に売れる、しかも、おむつカバーの素材や縫製技術を生かせる。この2つが理由でした」

なるほど、全く突拍子のない話というわけではなかったのですね。そこにはちゃんと理由があったということ。さらに言うと、1960年代後半というのは、全国の小学校にプールを設置する動きが急だった時期でした。だったら水泳帽を、との判断だったのですね。

しかし、ここで大事な話があります。同社によると、当時、プールに入るときに水泳帽をかぶるという習慣はまだ存在していなかったというんです。つまり、小学校がいくらプールを新設しているとは言っても、そこに水泳帽の市場は存在していなかった。そこからどうしたのでしょうか。

「セールストークひとつだけを引っさげて、全国を巡ったんです」

児童が水泳帽をかぶっていると、指導する先生からの視認性が高まるから、点呼を取りやすく、安全性が増します。これがそのセールストークでした。
このひと言で、市場なきところに市場を作ったのですね。ただし、成約を取ってくるのはそう簡単ではなく、当時の代表が全国行脚をかけ続け、各地のめぼしい特急停車駅に降り立っては、公衆電話ボックスに駆け込み、電話帳をめくってかたっぱしから電話をかけたといいます。

「水泳帽が浸透するまで、5年以上はかかったと記憶していますね」

つまり、発想力一発ではなくて、その後の努力あってこそ、実を結んだということ。時代の先を読んで主力商品を転換するところなどは、第54回の小杉織物の話に通じますし、市場なきところに活路をあえて見出すという点においては、第55回のSORANO HOTELの話にも共通しますね。

ちなみに、水泳帽の市場では、現在でも同社がトップシェアを保っているそうです。

近所の人からの「深刻な相談」

新製品へのヒントを見逃さない!(フットマーク株式会社)

なんだか、今回の本題である「Table with」という商品から、話が離れていっている気がするかもしれませんね。いや、もうちょっと待っていただけますでしょうか。

こうして1970年代に入って水泳帽の市場を切り拓き、業績を伸ばせた同社ですが、1970年代前半のあるとき、近所の主婦がそっと同社を訪れたそうです。「大人向けのおむつカバーって作ってもらえないでしょうか」という相談でした。

「当時は、お年寄りのためのおむつカバーが一般的ではなかったんですね」

しかも、現在と違って、大人がおむつをするという話を堂々とできる時代ではなかった、とも担当者は振り返ります。だからこの主婦も、こっそりと同社にやってきたそうです。
そんな切実な話に、同社はどうしたのか。

一点物のおむつカバーを作って。それをお売りしました。とても喜んでいただけましたね

わざわざ一点物ですか……。どうしてそこまでの対応をしたのでしょう。

「困っている人の声がひとつでもあったなら、同じ思いをしている人は100人、いやそれ以上いるに違いない、という確信ですね」

これは同社の社是のようなものであるとも聞きました。そうなのですね、だからこそ一点物を製作することに躊躇しなかったわけですね。
そして同社は、大人用のおむつカバーを一般販売することを決断しました。それまではまず存在しなかった商品だったのではないか、とも担当者はいいます。

「介護」の2文字を商標登録

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「でも、大人用おむつカバーを販売しながらも、どうもしっくりこない部分があったんです」

それは何だったのですか。

「商品の名称です。単に『大人用おむつカバー』と銘打つだけでは、この商品の用途などが伝わりきらないのでは、と悩んでいました」

1980年代半ば、同社の当時の代表が、ある2文字を冠することを思い立ちます。それが「介護」でした。この言葉、1892年には法令上に登場しているものですが、一般的にはそう使われてこなかったものでした。当時の代表は「介助」と「看護」から1文字ずつ取った格好である「介護」という2文字を商品名にすれば、その特性が伝わるだろうと判断したのですね。
そして同社は「介護」を商標登録します。ただし、保険会社などの各業界から問い合わせがあった際など、使用料は一切受け取らないことにしているそうです。

水泳帽を使う意義をみずから編み出し、今度は大人用おむつカバーの意味を浸透させる言葉を見出した……。実に興味深い話に思えました。

介護される人向けだったのに?

新製品へのヒントを見逃さない!(フットマーク株式会社)

こうした経緯があって、同社は水泳帽と並ぶ主軸として、介護用の商品を数々開発に乗り出しました。

2006年、同社はひとつの新商品を世に出します。これまではお世話する人の視点で開発する商品が多かったそうなのですが、介護される本人の側の気持ちに寄り添う商品も必要だと考えたといいます。それは、服に近いデザインの食事用エプロンでした。食べこぼしで服が汚れたりしないようにするためのエプロンですが、エリが備わっていて、見た目にもごく自然に馴染むというものです。そうしたエプロンであれば、着ける本人も嫌がらないだろうという配慮がそこにありました。

「このエプロンを開発するにあたって役立ったのが、水泳帽で培った撥水素材の活用でした」

そうですか。ここでも話がつながっているんですね。
で、ここからなんです。介護される本人が使うために発売したこのエプロン、ある新聞で取り上げられたところ。全く意外な反響があったといいます。

『介護用ではなく、自分自身が日常生活で使いたい』、そんな問い合わせが相次いでびっくりしました

例えば、歯みがきするときにこれを着けたい、あるいは、自分の夫がいつも食べこぼしするから着けさせたい、と……。

「いやもう、メーカーである私たちからすると、目からウロコの話でしたね」

そして同社は、もっと多くの人に役立つ商品を送り出したいと考えました。そのためにはデザイン面をリファインして、どのような場面でもすんなりと衣服になじむようにしたい。その結果……2018年に「Table with」が生まれたというわけです。

はい。ようやく話がすべてつながりましたね。赤ちゃん用おむつカバーから水泳帽へ、そして大人用のおむつカバーから介護用商品全般へ。そこから今回の「Table with」へ……。また、それぞれの過程では、過去にものにしてきた技術が間違いなく生かされた、という流れです。ちなみに「Table with」のプリーツ加工は、和装にも洋装にも合うデザインとなっていますが、この加工手法には水泳帽で会得した技術がやはり活用されているとのことです。

時代の波をとらえるというのは、そう簡単な話ではありません。でも、みずから道を切り拓いていける可能性は、誰のもとにも平等にあるのかもしれないと感じさせてくれた事例でした。それをものにできるかどうかは、わずかなヒントを見逃さない、この一点に尽きるとも言えそうです。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分
析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっ
ている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」
(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、NTT東日本「経営力向上ラボ」、
家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地
方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」な
ど、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

ANA国内線「北村森のふか堀り」監修

経済産業省 北海道経済産業局 地域ブランド創出支援事業 チームリーダー
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)

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