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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第53回)

起業の神は細部に宿る!(株式会社GRAND GIFT)

起業の神は細部に宿る!(株式会社GRAND GIFT)

2020年のコロナ禍のもとで、さまざまな業界が苦境に立っています。ただし、こうした大変な状況下でも、消費者を振り向かせている商品は確実に存在します。それも、中小企業やベンチャー企業の手になるもので……。

今回と次回、2回にわたって、そうした事例を取り上げていきましょう。まず今回なのですが、コーラなんです、飲み物の。
コーラがどうしてコロナ禍で?と思われるかもしれませんね。私が今回お話ししたいのは、コーラ系飲料全体の話ではありません。2018年に起業して、今年2020年に花開いた、あるベンチャー企業がテーマです。

GRAND GIFTという企業名よりも、商品の名をお伝えしたほうが、通りがいいかもしれません。「伊良(いよし)コーラ」といいます。まず何に惹かれるかといえば、この商品、「世界初のクラフトコーラ」と銘打っているんです。「クラフト」と聞くと、ビールですとかジンですとか、アルコール系の商品が頭に浮かびますよね。独立系の小規模な工房でつくられ、それぞれの味を競う感じの……。

ということは、「伊良コーラ」の場合、コーラの味がなによりの勝負となるわけですね。実際に飲んでみました。私の感想は「スパイスが相当に効いていると同時に、どこか郷愁を誘う、せつない味わい」。大手メーカーのコーラとは、よって立つところが異なると、たちどころに理解できました。これは誰かに伝えたくなってしまう一杯だ、とも。

同社は2018年に、一台の移動販売車を使ってクラフトコーラの販売をスタートさせました。そして2020年に、生産の本拠である東京・下落合に固定店舗を開設しています。現在は金曜から日曜にかけてだけ、それも午後のみの営業なのですが、それでもお客がひっきりなしに訪れています。下落合という場所は、都心からちょっとだけ離れた、さほど利便性の高いところではないのですが(そのうえ、最寄り駅からはちょっと奥まった桜並木沿いという立地)、お客がどんどん来ている様子には驚かされました。

さらに2020年夏には、瓶入りのクラフトコーラを供給開始。最初のロットの2万本はたちまち完売し、次の3万本も完売。ということは、この短期間に計5万本が捌けてしまったという話ですね。ネット通販のほか、全国の大都市圏のセレクトショップなどからの引き合いが多いようです。

決して安いコーラではありません。ボトル入りの商品は240mlで540円。伊良コーラの店舗で飲めるパウチ入りの商品は500円からです。また、自宅で飲めるシロップ(炭酸で割ります)は250ml(コーラ5杯分)で2950円です。

にもかかわらず、人気が人気を呼んでいます。コーラの生産・販売一本である同社の売り上げは年々、3倍ペースで増加しているとのことで、これはもうまごうことなきヒット商品と表現してよいでしょう。また、設立初年度から黒字計上だそうです。

どうしてこんなヒットに? 理由はいくつもあるでしょうね。ひとつは、このコロナ禍で、ちょっとした贅沢がいかにありがたいかに人が気づいたこと。制約のある生活をおくらざるをえない状況下で、500円ほどでこれまでにない体験を得られるなら、消費者はそこにお金を投じるという話ですね。もうひとつは、言うまでもなく「世界初のクラフトコーラ」と明言したことによるインパクトでしょう。これほどわかりやすい商品説明はないでしょうからね。

会社員が趣味でつくり始め…

起業の神は細部に宿る!(株式会社GRAND GIFT)

同社の代表から、話を順番に聞いていきましょう。そもそも「クラフトコーラ」と銘打ったのはどうしてですか。

「もともとは、米国の大手コーラメーカーが、ちょっと高級なコーラを『クラフトコーラ』と、マーケティング上、表現していたようです。米国では手づくりのコーラをDIYのような感覚でつくる人もいました」

それで、代表がコーラを商品化しようと判断したとき、「クラフトコーラ」と掲げたのですね。

代表は大学卒業後、大手広告代理店に入社しています。その仕事の傍ら、プライベートの時間を使って、最初はあくまで趣味としての位置づけでコーラづくりに挑んでいたと聞きます。幼い頃からのコーラ好きが昂じたという話でした。

あるとき、彼は偶然、100年前のコーラのレシピを発見します。それは英語で綴られたウェブサイトだったそうなのですが、それが彼のコーラづくりの趣味に拍車をかけることになりました。

「2年くらい、仕事以外の時間を割いて、あれこれと試行錯誤していました。でもあくまで『遊び』の領域ではありましたね」

では、遊びが本気になった契機はなんだったのでしょうか。

「漢方職人だった祖父の存在です」

こんな道具を祖父は使っていて、こういう話をいつもしていて……と家族から聞いた、それが本気への引き金となったそうです。

「具体的には、火の入れ方ですね。漢方の場合、材料をただ合わせて煮込めばいいというものではなかった。そこには、やり方というのがあるのだ、と」

一般的なコーラやジンジャーシロップの場合、ただ煮込む手法をとっているのがもっぱらだそうですが、それではいけないと考えたといいます。ここから彼はレシピを根本から見直しました。

いきなりの完売は想定外

起業の神は細部に宿る!(株式会社GRAND GIFT)

そして2018年。ついに完成したコーラを、彼は移動販売に踏み切ります。東京・青山の週末マーケットに乗り込もうと、軽自動車のワゴンを改造した一台を手に入れました。このとき、彼はまだ会社勤めでした。趣味から半ば本気になってつくり上げたコーラを同僚に飲ませたら、真剣な顔で「これ、売ってくれないか」と請われたそう。ならば、と副業のような格好で移動販売を決めた。せっかくなら、いろんな人に飲んでほしいと考えたからでした。

上の画像にあるようなビニールパウチに入れての販売だったのですが、結果、どうだったか。初日に150本が完売となりました。当の本人もびっくりだったらしい。なぜそこまでの反響だったと思いますか。

「この一杯が、全く新しい存在だったからではないでしょうか」

移動販売を始めたのが2018年7月。で、その年の12月に、勤務していた広告代理店を彼は退職します。それだけの手応えを感じていたのでしょうね。

「広告代理店の仕事は、自分でなくてもできる。もっと向いている人がいるかもしれません。でも、『伊良コーラ』は自分にしかできませんから」

7月から年末にかけて、彼は徐々にコーラの生産・販売へと「体重移動をかけていって」、最後は退職、完全独立したということですね。

ガーナまで材料を求めて

起業の神は細部に宿る!(株式会社GRAND GIFT)

コーラそのものの話を、もう少し聞かせてもらいましょう。代表のつくり上げたコーラは、やはりそのスパイス調合にカギがあるのですか。

「12種類ほどのスパイスを調合してつくっていますが、なかでもコーラの実を調達するために、西アフリカのガーナまで行きましたね」

ガーナの日本大使館に連絡をとり、最終的には同国にある農家のもとを訪れ、交渉を重ねたといいます。代表に言わせると、西アフリカの人々にとって、コーラの実は「神様の贈り物」と称される特別な作物だそう。そこには文化として根付いている奥深さもあるのですね。そうした背景に敬意を表しながら、彼は取引を実現しようと考え、そして完遂しました。

「こうした取引、聞くと前例はなかったそうです」

それでも踏ん張れたのは、広告代理店時代の経験がとても生きた、と彼は振り返ります。イベント担当で海外との折衝も担っていたことが、ここで役立った。

ちなみに、ですが、大手どころのコーラの場合、コーラの実はまず使っていないとも聞きました。味そのものにはさほど影響がないとされているからだそうです。だったらどうしてまた、代表はコーラの実をこの一杯に加えることにこだわったのでしょうか。

「僕のルーツは漢方だからですね」

なるほど、ここで祖父のお仕事の話がまた出てくるわけです。コーラはそもそも、機能的飲料です。だから代表は、コラニンなどの成分を含むコーラの実は欠かせないと強く判断したのですね。

そして、スパイスの調合にあたっては、祖父が遺していた漢方の粉砕機を修繕して、それを現役復帰させて活用したそうです。上の画像の右側に写っているのがそれ。調合室=コーラの生産拠点は、スタッフが2〜3人も入れるかどうかという小さな空間ですが、そこには代表の思いが反映された粉砕機が不可欠なのだろう、と感じました。

もうひとつ聞いておきたいことがあります、クラフトコーラを商品化しているところって、本当によそにはなかったのですか。

「他社に製造委託せずに、完全に自社生産しているのはウチくらいかと思います。それに自前で店舗を構えているのもそうでしょうね」

ああ、そういうことですね。代表の話を聞いていて、私、1990年代に巻き起こってすぐに沈静化してしまった地ビールブームのことを思い出しました。

90年代当時、全国各地に地ビールの拠点が林立しましたね。でも、長く続いたところはそうなかった。なぜか。地域おこしの一手段として地ビールを利用しようと考えるところが多く、味のことも生産法のこともコンサルタント任せだったところが大半で、その結果、お客が離れていったんです。「どこで飲んでも同じような味で、しかも値段が高いだけじゃないか」と……。そこをしぶとく生きぬいて、2000年代に入ってからのクラフトビール人気の時期まで残っていたのは、味ひとつ、製造手法ひとつ、しっかりと独自性を貫いていた事業者でした。

クラフトコーラについても、おそらくそれと同様で、ただ単に「クラフト」と標榜するだけの事業者は淘汰されるのかもしれませんね。腰を据えて手がけているかが厳しく問われるはずです。消費者はそこを見逃さない。代表は言います。

「私の場合、やっていてワクワクできた。だからビジネス化に踏み切ったんです」

「コカ、ペプシ、イヨシ」

起業の神は細部に宿る!(株式会社GRAND GIFT)

さあ、ここさあ、ここからです。代表の言葉でひときわ印象深かったものがあります。

近い将来、『コカ、ペプシ、イヨシ』と並び称される存在にしたい

そのためには何が必要かと尋ねたら、ああ、そういう話かと膝を打ちました。

「一番大事なのは人材です」

だから同社は、インターンの募集、スタッフの募集を精力的に進めているのですね。冒頭で触れたように、売り上げは年々3倍ペースで推移、利益も初年度から計上していますが、この先はやはり人材育成なのですね。

「小さな移動販売車(上の画像で代表とともに写っている一台です)から始め、順を追って社業を伸ばせています。次は『人』に尽きます」

あと、これは念のために聞いておきたいのですが……。代表は幼いころからのコーラ好きだったのですよね。好きなものを仕事にするって、ある意味でつらくはないでしょうか。趣味のままにしておいたほうがよかったとは思いませんか。

「私は3つの軸を大事に意識している気がします。まず『好きかどうか』。さらに、それにもまして『得意であり』、かつ『世の中に求められているかどうか』です」

そうなのですね。ただ好きなだけではない。そこにはあと2つの動機付けがあった。だから仕事として続けられるという説明には納得できました。

その結果、代表は、前述のように「ワクワクできている」といいます。では、最後に……。しつこいようですが、どうしてワクワクできるのですか。

『見たこともないもの』を提供するのを大事にしているからです

ああ、そこですか……。コーラに限らず、すべての業界において、これこそがヒットの源泉、と言っても差し支えないかもしれませんね。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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