小規模から始める越境EC(輸出)ファーストステージの実務(第4回)
マネー編 為替について知っておきたいこと
為替の影響(数字管理の面から)
海外の取引先に対して商品を売買する場合、避けて通れないのが為替の問題です。相手国の通貨で売買をした場合、為替相場の変動に応じて多かれ少なかれ「為替差損」もしくは「為替差益」(あわせて「為替差損益」といいます)が発生します。日々の会計業務上や損益計算書に落とし込んだとき、具体的にどのように表現されるのでしょうか。
ここでは〔輸出を商売とした場合〕の説明をします。下記の通り円高に振れたケースAと円安に振れたケースBで違いを見ていきましょう。
●ケースA:円高
|
|
|
|
6月1日 |
10,000USドル |
100円 |
商品が売れた(掛取引) |
6月30日 |
10,000 USドル |
95円 |
銀行口座に入金された |
7月31日 |
900,000円 |
90円 |
円転した |
*「円転」とは円転換の略で、外貨資金を円資金に換えること
●ケースB:円安
|
|
|
|
6月1日 |
10,000 USドル |
100円 |
商品が売れた(掛取引) |
6月30日 |
10,000 USドル |
105円 |
銀行口座に入金された |
7月31日 |
1,100,000円 |
110円 |
円転した |
1)売上計上時
外貨建ての売上も円貨で評価しなくてはなりません。相場が1USドル=100円の場合は下記の通りとなります。
●仕訳
売掛金 1,000,000円 |
売上 1,000,000円 |
2)外貨入金時
銀行に外貨建て口座を持っておくと、販売先から入金された外貨を外貨のまま受け取ることができます。この時も帳簿には円貨で評価します。売上時より為替相場は動いていますので、外貨ベースでは一致する金額を受領した場合でも、帳簿上の評価額は変わり、為替差損益が発生します。
大切なポイントは、売上高は変動しないことです。為替変動の影響は、通常営業外収支の為替差損益という勘定科目に計上されます。
●ケースA:95円まで円高進む
外貨口座 950,000円 |
売掛金 1,000,000円 |
●ケースB:105円まで円安進む
外貨口座 1,050,000円 |
売掛金 1,000,000円 |
3)円転時
口座にある外貨はいずれ日本円に換える時がきます。その時はどのように評価をするのか、ご紹介します。ここでも売上高には影響せず、営業外収支の欄に為替差損益が発生します。
外貨を持ったまま決算日を迎えると、決算日の為替レートにて時価評価をしなければなりません。
●ケースA:90円まで円高が進む
円貨口座 900,000円 |
外貨口座 950,000円 |
●ケースB:110円まで円安が進む
円貨口座 1,100,000円 |
外貨口座 1,050,000円 |
対照的に海外より輸入する取引では、一般的に円高が進むと為替差益が発生し、円安が進むと為替差損が発生します。
為替の計上にあたって
海外旅行時の両替などでお気づきだと思いますが、為替レートはいくつかの種類があります。外貨建て取引の円評価に使うレートには、下記のルールがあります。
① 原則、取引日の対顧客直物電信売相場(TTS)と対顧客直物電信買相場(TTB)の仲値(TTM)を使う。
継続利用を条件に平均値なども認められる。
② 当該日に為替相場がないときは、前日の為替相場を使う。
③ 当該日に2つ以上の為替相場があるときは、最終相場を使う。
それぞれの事業者によって独自の取引形態や個別の事情もあると思います。税務に関する具体的な対応については、最寄りの税務署や税理士にご相談下さい。
為替の管理
外貨建てにより売買をすると、様々な局面で為替差損益が発生します。売上高への直接的な影響はなくとも、最終的な利益を左右することとなります。そのため取引規模が大きくほど、為替リスク管理が必要となってきます。
銀行に申し込むだけで、比較的手軽に使えるのが「為替予約」です。為替予約とは、「将来の外貨を売買するレートをあらかじめ決めておく(予約)取引」のことです。これを利用すれば、円転時の受渡額があらかじめ定められるので、為替相場の影響を受けずに済みます。円安になって思わぬ利益を得ることはできなくなりますが、円高になって思わぬ損失を被ることを回避できます。
ただし、いったん契約した予約は途中で放棄することはできません。「いつの時点で」「いくらのレートで(レートには手数料が含まれます)」予約するかは銀行が提示してくる条件次第となります。為替予約取引の特性を充分にご理解された上でのご利用をお勧めします。
●ケースC:1USドル=100円で為替予約する。市場は円高になる
取引日 |
取引額 |
為替相場 |
取引内容 |
6月1日 |
10,000USドル |
100円 |
商品が売れた(掛取引) |
6月1日 |
10,000USドル分 |
100円 |
2ヶ月後に1USドル=100円で取引するための為替予約をする |
6月30日 |
10,000USドル |
95円 |
銀行口座に入金された |
7月31日 |
1,000,000円 |
90円 |
市場は円高になっていても、円転は 1USドル当たり100円で行われる。 |
結果として、為替予約したことで1USドルにつき100円で円転しましたので、予約していなかった場合に生じていた為替差損(マイナス100,000円)を回避できました。しかし同じ取引で、逆に円安になり1USドルが110円になったとしても、得られていたはずの為替差益(プラス100,000円)は発生しません。
売上高の管理
ここまで見てきた通り、国内取引に比べ海外取引では為替差損益をはじめとしたリスクを考慮に入れる必要があります。この場合のリスクとは、一般的に使われている「危険が発生する可能性」という意味ではなく、プラスとマイナスの両面を含めた「ある事柄が発生する不確実性」と捉えて頂いた方がよいと思います。海外取引は国内取引に比べて、ブレ幅は必ず大きくなります。
そのために、海外取引における売価設定は、国内取引の設定原価に比べて、高く設定する必要があります。以下海外輸出小売店を想定してみます。
・国内販売価格=仕入原価+値入額①
・海外販売価格=仕入原価+値入額②+(a)輸出にかかる経費+(b)リスク考慮額
値入額ですが、➀国内向けと②海外向けは同額であっても、変更しても構いません。しかしわざわざ努力して海外へ販売するにもかかわらず、同じ儲けでは意味がありません。通常②の方が高額となります。そして、(a)輸出にかかる経費は、海外サイト利用料金や翻訳費用、送料など実際に発生する経費です。また(b)リスク考慮額は、トラブルが発生した際の損失をカバーするための引当金のような意味合いです。
●売価設定の一例
・国内販売価格 = 仕入原価6,000円+値入額4,000円 = 10,000円 |
この商品を輸出する場合は、値入額②=国内値入額の+30%、(a)輸出にかかる経費1,500円、(b)リスク考慮額=仕入原価の20%、と設定すると以下の通りになります。
・海外販売価格 = 仕入原価6,000円+(値入額5,200円+(a)輸出にかかる経費1,500円 +(b)リスク考慮額1,200円) = 13,900円 |
上記のような理由により、海外で販売する場合の販売価格は、国内の販売価格に比べておよそ3割から4割以上は高くなります。その条件でも売れる商品を選別する視点が不可欠です。
また売価から仕入原価を引いた値入総額は、国内販売価格の4,000円から海外販売価格7,900円とほぼ倍増しました。しかしこの金額から販売管理費としていくつかの経費が引かれます。また紛失や破損、入金不備などトラブルは国内取引に比べて確実に増加します。そのためにも売上総利益額を増加させる対策は必須となります。
ただし仮に想定売価でうまく販売できたとしても、今年の2~3月の新型コロナの影響のように為替相場が5%下落すれば、想定値入は一瞬で5%無くなってしまいます。
どう設定したら良いのか
毎日変動する為替相場に合わせて、自分の販売する商品全ての売価を変更することは現実的ではありません。しかし年に1回程度見直すことは必要かと思います。
そしてリスクに備えて、現実よりも円高でも耐えられる販売売価を設定する必要があります。知人は計算が面倒だから、ここ数年はいつも1USドル=100円相当で売価設定しているそうです。それぐらいのマージン(利幅)があると、ビジネスも余裕のあるものになるかもしれません。
次回はマネー編といたしまして、海外決済についてお話させて頂く予定です。
SHARE
小規模から始める越境EC(輸出)ファーストステージの実務