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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第42回)

生かすべきタネを見つける!
(奄美料理-KOYOMI-暦)

生かすべきタネを見つける!(奄美料理-KOYOMI-暦)

商品開発のヒントは足許にあるという話、これまで何度か綴ってきましたね。第32回、鹿児島県の「さつまからすみ」の事例など、まさにそうでした。これは、古くには存在した産品に再び光を当てるところから始まった話でした。
今回は、その第32回と同じ、鹿児島県で開発された商品がテーマです。

「ミキ」ってご存知ですか。私、つい最近まで知りませんでした。それっていったい何?って思う方、きっと少なくないと思います。
ミキとは、鹿児島県の奄美大島に昔からある発酵飲料の呼び名。お米とサツマイモと砂糖で作られる、甘酸っぱい味わいの飲み物です。ちょっと酸味のきいた甘酒を思い浮かべると、その味を想像してもらえるかと思います。もともとは「神酒(みき)」、つまりはお供え物の1杯から来ていると聞きました。

この奄美大島のミキなんですが、島にはミキを製造販売しているメーカーがあって、1リットルの紙パック入りが300円ほどで売られています。ただ、奄美出身の若い女性料理人さんから教えてもらったのですけれど、「奄美の若い人はあまり飲まない。おばあちゃんの家にある飲み物、というイメージが今では根づいている感じ」といいます。

でも、実際に飲んでみると、意外なほど、けっこう洗練されている味わいなんです。これ、過去のものにしてしまうのはもったいないかもと思えるほどに……。それに、このミキって、発酵飲料だけに、体がへたっている日なんか、この1杯がとてもいいかもしれませんしね。

で、先ほど話した若い女性料理人(鹿児島市内で、奄美料理の「暦」というお店を構えています)は決断したそうです。
「奄美大島出身で、食に携わっている立場として、このミキの実力をなんとか伝えていきたい」と思い立った。そして、島の製造工場と連携して、若い世代に手に取ってもらいやすいパッケージデザインで、新しいミキを世に出そうと動いたんです。元々のミキよりちょっと飲みやすい味わいに調整もした。今回はその経緯と、そこから学べるヒントをお伝えしていきましょう。

値段は200mlで税別500円です。今年(2020年)2月末の発売で、現在購入できるのは鹿児島市内の数店舗、それと公式のネットショップ。
冒頭の画像で分かるように、この新商品は「黒」と「白」の2種類があって、黒いのは竹炭とレモンを含んでいます。白いのは伝統的なミキに近く、それに生姜を加えたもの。ボトルデザインもなかなかに洒脱ですね。

商品名は「キミニミキ」といいます。

魅力が忘れられつつある

生かすべきタネを見つける!(奄美料理-KOYOMI-暦)

商品化した料理人は、先に触れたように奄美出身。子どものころから当然、ミキの存在は知っていましたが、あんまり好きではなかったそうです。

「市販のものは甘味が強く、どろっとした印象でしたから」

高校卒業後、大阪で料理の世界に入り、奄美料理を研究するなかで「そういえば、奄美には、ミキがあったな」と、ふと思い出しました。

「よく考えてみたら、ミキって発酵食品ですし、植物性乳酸菌が由来でもある」

彼女が体調を崩したとき、身体に良いかもと、試しに自分でミキを作ってみたといいます。

「古い書籍などをあたって、そこに載っていた作り方を手がかりにしました」

要するに「自分の求めるミキ」をこしらえてみようとしたわけですね。もっと飲みやすく、しかもミキの特性を生かした一杯を、ということ。
それが美味しかった。まあ、さすがは料理人というところですが、こうした過程で、彼女には強く感じたことがあった。

「奄美にいる友達に聞いても、そろって『ミキって嫌い』という答えが返ってくるんですね」

それがもどかしく思えたそうです。なぜか。

「近年、海外発のスーパーフードが持て囃されていますけれど、日本にもこういう存在があるんだという話です」

植物性乳酸菌を生かした発酵飲料であり、美容を意識している人の心に刺さるに違いない。でも……。

「そのことを知らなかったり、また、存在を知っていても既存の商品のイメージに引っ張られていたりすれば、広い普及はかないませんね」

実際、奄美の友達に「ミキって実はいいんだよ」と伝えても、「そうかなあ」という返事。また、彼女が「自分で作ると美味しいよ」と話しても、「レシピがわからないから」と返されてしまう。
私、常々お話ししていますが、「伝わらなければ存在していないのと一緒」なのですね。実は実力のある地域産品が埋もれたままであるケースが少なくないのも、端的に言ってしまえば「伝わっていないから」でしょう。

先入観を拭い去ってもらう

生かすべきタネを見つける!(奄美料理-KOYOMI-暦)

30代である彼女に聞くと、ご自身の母親世代でも、すでにミキへの関心は薄れていた印象だそうです。祖母世代だと家庭でミキをよく手作りしていたらしいのですが、それも昔の話。
島のスーパーマーケットでは市販のミキは売られているものの、前述したように「やっぱりお年寄りの飲み物という感じでした」。

だったらどうするか、ですね。彼女はここで、みずからの手で新しいミキを商品化することを目指し始めます。
味のイメージは彼女のなかに、すでにありました。

「甘すぎず、飲みやすく……。それだけでなく、北米で人気のチャコール(炭)ドリンクを想起させるような商品にすることも決めました」

飲みやすくするために、フレーバーを加えるのは必須と考え、様々試した結果、2つの味にたどり着きました。先ほどお話ししたように、黒いのは竹炭とレモン、白いのは生姜です。
黒は「MOON」と名づけました。私、実際に購入して飲んでみましたが、思いのほか爽やかで、しかもミキの風味も堪能できる。白は「SUN」としています。こちらは既存のミキにより近い味わいですが、生姜がピリリと効いていて、飲み飽きしない。そして、黒も白も、なんといいますか、舌の上を通ってゆくときにシュッとしたエッジが感じられ、これなら若い世代も親しめるだろうなあと思わせます。

さて、実際の製造は? 奄美に戻り、地元にある複数の食品会社に話を持ちかけました。そのうちの1社には、彼女と同世代である3代目が切り盛りしていたそうです。で、その3代目もまた、ミキをこのままにしておくのはもったいないと考えていたそう。これで話は決まりました。

2つの味としたメリット

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「実は……」と彼女は話を続けました。

開発当初は、竹炭を加えた黒いほうだけを商品化する予定だったらしい。それをなぜ、わざわざコストをかけて黒と白の2種類のラインナップとしたのか。

「黒と白があったほうが、明らかに訴求力が高まると判断したんです」

彼女の言う通り、見た目のコントラストが面白いですから、それはわかる気がします。

「結果として、2種類にしたメリットがはっきりと出ました」

どういうことか。

どちらか1つではなくて、黒と白の両方を買ってくれるお客さんがほとんどだったから

90%ほどの購入客は、2つをセットで求めるそうです。これは大きいですよね。そして、クチコミが広がるにつれ、「2本→4→6本といったふうに、偶数単位でさばけていくのが実感できました」ともいいます。いい判断だったわけですね。

人は「まだ見ぬもの」に触れた場面で、その中身を確かめようと動きます。ミキを知らなかった消費者も、あるいはミキは知っていても新しい味は未知な消費者も、確かに両方試したくなるでしょう。

「口にすること」の大切さ

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彼女はいいます。

「ここまでお話ししてきたように、私がミキに興味を抱き始めたのは、つまりは島を離れてからなんですね」

ここは大きなポイントかもしれません。足許にある宝物って、その近くにいる人はかえって気づきにくいということです。彼女は奄美を出て、料理人となり、そのなかでミキを思い出し、さらには、この時代にそぐうように味もボトルデザインも、そして商品名もブラッシュアップしたわけです。それらはすべて「伝えるため」でしょう。伝わっていないのは存在していないのと一緒、とするなら、存在し続けるためには伝える力を持つ商品にしないといけない。そういうことなのだと思います。

彼女に言わせると、ここまでは順調な経緯だそうです。発売から3週間で、初回生産分は早くもほぼさばけ、追加発注する運びにもなりました。
ただし、不安点がないわけでもない。
まずは故郷の奄美の人たちが、この「キミニミキ」をどう受け止めるか。

「島からの声はまだ届いていませんが、もしかすると『神様へのお供え物であるミキをこんな形にして』と行った異論が出るかもしれませんね」

ああ、確かに……。古くからある産品のかたちを変えようとすると、そうした反発がある可能性は残ります。例えば、第30回で取り上げた「いぶりがっキー」がそうでした。秋田県名産であるいぶりがっこ(たくわんの燻製ですね)をドライスティック化したとき、同業者からの反発はあったらしい。でも、「いぶりがっキー」が登場したことで、漬物に興味を示さないような若年層が、この商品に飛びつき、結果として、いぶりがっこに再び注目が集まるようになりました。時代とともに形を変えることはひとつの必然ではないか、と私などは思うわけです。

もう1つ、課題点があると彼女はいいます。

「この『キミニミキ』は乳酸菌を生かすために冷蔵か冷凍での流通としています。なので、賞味期限は2週間なんです」

これでは大都市圏に向けた既存流通には乗せにくいですね。小売にすれば扱いが難しく、店頭に長く陳列できないですし。
だったら常温保存できるミキを作るか、となりますが、私の考えを述べるなら、このままで良いと思います。例えば生協などが取り扱えば、流通上の課題は多少改善しますね。「キミニミキ」の持ち味は生かしたほうが得策かも、という気がします。

ここで彼女に尋ねました。今回の「キミニミキ」の開発と商品化には、どれくらいのコストをかけたのですか。

90万円ほどです。これで今後の生産分を含め、まずは1000本を作る規模」

商品開発のコストとしては、さほどではなかったのですね。

「最初は小さく始める」という意識を持っていました。これが良かったと思います

いわゆるスタートアップには、さまざまな形態や戦略があり得るでしょうけれど、「キミニミキ」では、小さく始めて、そこから育ててゆくという考えだったのですね。

「実は『スタートアップ』という言葉を知ったのは、昨年の夏です」

彼女はそう笑います。そんな彼女に「スタートアップに必要なことってなんだったと感じましたか」と、最後に尋ねました。

「アイデアを口にすることが、まず何より大事なのだと、つくづく思いましたね」

口にすることで、共感を抱いてくれる人を得られた。そして生産で協業してくれるメーカー、狙いどころを理解してすぐさま形にしてくれたデザイナー、さらに商品名のヒントをくれた料理人仲間……。
言葉にしていなかったら、こうした皆さんの力はもたらされなかったでしょう。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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