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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第36回)

続・きっかけは「作り手」の中にある!
(大東製糖種子島株式会社)

続・きっかけは「作り手」の中にある!(大東製糖種子島株式会社)

ヒットの基本は「プロダクトアウト型の思想」にある、と前回(第35回)のコインホルダーの話で綴りました。前回は「自分が欲しいコインホルダーを、自ら作る」という流れでしたね。
今回はと言いますと、「自分たちが素材の“大元”までを知らないでどうする」と考えのもと、一念発起したという話なんです。

テーマは「砂糖」です。あの甘い砂糖。

最初に申し上げておきますが、今回の話、私自身が携わっている案件です。ある製糖会社がプロジェクトを立ち上げて間もない時期に、同社からどのように進めていくべきか相談を受け、その後、現地まで飛んで取材をし、さらに商品化に向けて、一緒に考えてきました。私がプロジェクトに参画したからこそ理解できた部分も含めて、お伝えしていきますね。

一番上の画像をご覧いただければお分かりのように、この砂糖、真っ白ではなくて、ほのかな褐色を帯びています。でも、いわゆる精製糖の一種である三温糖ではないんですよ。黒糖とも厳密には異なります。
じゃあ、何なのか。原料となるさとうきびを育てるところから始まり、その刈り入れの方法、さらにさとうきびを搾るタイミング、そして焚き方まで、すべてを見直した、ある意味で全く新しい砂糖と言っていい。

試作されたのをいち早く食べてみました。ひとさじがそのままデザートになると表現していいほどの出来映えでした。香りが立って、甘さが輝きを放ち、その後すうっと引いてゆく。
懇意の料理人に口にしてもらったら「コクが違いますね」と感想を伝えてくれました。「かなり贅沢な砂糖だと思います」とも。

製糖会社は、これをどうやって作り上げたのか。そもそもどうして作ろうと考えたのか。
発端はこうです。千葉県に本社のある大東製糖が2018年、鹿児島県の種子島に、新会社となる大東製糖種子島を設立し、地元自治体と立地協定を結びました。そして、同社の「種子島プロジェクト」が立ち上げられました。

製糖会社が畑から耕す

続・きっかけは「作り手」の中にある!(大東製糖種子島株式会社)

大東製糖種子島が掲げたプロジェクトのテーマは単純明快でした。

「『日本一おいしい砂糖』を作る。これに尽きます」

社長はそういいます。私、それを聞いた時点でふと思ったのですが、塩って個性を感じさせるものが多彩で、消費者が選ぶ作業ひとつ、楽しいものになっています。この連載でも、第11回の百姓庵で、その一例をお伝えしていましたね。

その一方で、同じ基本の調味料である砂糖は、こう言っては何ですが、さほど進化していないようにも感じられてしまいます。
同社は、日本一美味しい砂糖作りを目指す、とテーマを掲げました。では、具体的には?

「まず。畑を耕すところから始めたんです」

どういうことか。聞けば、通常の製糖会社における砂糖作りはこういう流れだそうです。
まず、製糖会社は、原料糖を仕入れる。そして、その結晶や糖液から完成品を作る、というのが一般的。
それに対して、今回のプロジェクトでは、製糖会社である同社が、原料糖を仕入れるのではない。先ほどお伝えしたように、自分たちの手でさとうきびを栽培して、育ったさとうきびを自ら搾る。さらにその絞り汁を焚いて結晶化させる、というところまで持っていく。

つまりは、砂糖の原材料を畑で育てるところから一気通貫にやってしまおうという話なわけです。
わざわざ、どうして?

「砂糖を作る会社が、さとうきびのことを知らなくていいのか、という思いを、ずっと抱いてきたんです」

砂糖ができあがるまでの徹頭徹尾を、自らの手でやり抜くという意思は分かりました。でも、それってある意味、自己満足に過ぎない可能性もありますよね。プロであるさとうきび農家に栽培を任せてもいいはずだから。

「いや、さとうきびを自分たちで栽培することで、大きなメリットが生まれます」

すべて「理由」を突き詰めた

続・きっかけは「作り手」の中にある!(大東製糖種子島株式会社)

それは何かというと、同社が目指す味作りに合うよう、さとうきびの品種を自由に選べるだけではない。最適なタイミングで刈り取ってすぐさま、工場に持ち込んで搾るという作業が可能になるところが大きいのだそうです。

「刈り取ってからすぐに搾ると、さとうきびの持ち味がそのまま生かせます。何日も寝かせておいては、どうしても、さとうきびを刈り取る際にできる切り口から、せっかくの成分が逃げてしまうから」

さらには、さとうきびの刈り取り方にも、砂糖の品質を左右するきわめて重要な部分があると聞きました。同社では、機械(刈り取り機)を使わずに、人の手で1本ずつ刈り取るのだといいます。2メートルを優に超えるさとうきびを1本ずつ手作業で刈ることに、どんな意味があるのか。

「手で刈り取ると、切り口は1カ所だけになりますね。でも、刈り取り機の場合には1本のさとうきびを30センチごとのぶつ切りにします。ということは、断面の数が本当に違うんです」

断面が多いと、先ほどの話のように、そこからショ糖が分解し始め、成分が逃げていきます。だから切り口は少ないほどいいというわけなのですね。
そうして手作業で刈ったさとうきびは、あくる朝には搾るそうです。刈った後にずっと積み上げておくということはしない(さとうきび収穫の最盛期には、ややもすれば各社の工場の稼働が立て込み、搾る工程が遅れることもあるそう)。

これもまた、自社で一気通貫に砂糖作りを担うから可能になる、ということですね。

常識を疑い、製法を再構築

続・きっかけは「作り手」の中にある!(大東製糖種子島株式会社)

そうして搾った汁を、今度は焚いてゆくわけですが、ここでも従来の手法を見直しているとのことでした。
同社では、搾り汁を焚く時間は、わずか30分程度。これは従来の製法からすると、かなり短いらしい。なぜか。

さとうきびをかじったときに感じる、あの植物らしさといいますか、みずみずしさを、完成した砂糖でも保持するためには、こうして短時間で焚きあげるのが最善と考えたからといいます。
従来の黒糖がもつ独特のえぐみは、長時間かけて焚く過程で生まれるものだそうです。この「種子島プロジェクト」が目指す砂糖の味に、えぐみは入らないと考え、あえて短時間で焚くという手法を選択しています。

そして、焚き上げて蜜のようになったところから、最後の工程を迎えます。冷やしながら撹拌してゆくと、少しずつ結晶化が始まり、ようやく砂糖の完成をみます。
ここで大事なのは、きちんと熱をとってあげることで、そうしないと砂糖が灼けてしまい、それまでの工程が無となりかねない。

なるほど、ここまで細心の注意を払ったすえに、話の前半で触れたように、ある意味で官能的な味わいと言えるまでの品質を有した砂糖が生まれるという話なのですね。
それにしても、です。どうしてまた、ここまでやり尽くそうと考えたのか。

「確かに、この砂糖の価格は高くなります。それでも製糖会社として、やれることをやるべきだと考えた。そして、もうひとつは…」

種子島に新たに根づく産品作りに、製糖会社として貢献したかったのだと聞きました。
ここ種子島は、さとうきびの産地としては北限に近い。四国の高知でも栽培がなされており、美味しい砂糖が作られていますけれど、生産量の規模でいいますと、種子島となるでしょうか。島のいたるところにさとうきび畑が広がっていますから。

その種子島で、とびきりの砂糖をものにして、島の人たちに口にしてもらうだけでなく、その砂糖を生かした産品もぜひ開発して欲しいとの願いがあるということです。

全く新しい砂糖と思ったら…

続・きっかけは「作り手」の中にある!(大東製糖種子島株式会社)

私が最もお伝えしたい話は、実はここからなんです。
この「種子島プロジェクト」から生まれた、とびきりの砂糖に、どのような名前をつけるか。それを同社から相談され、私も種子島に入って、島内をめぐりました。
試作した砂糖を携え、さとうきび農家のもとを訪れたり、役場に赴いたり…。

そのなかで、地元の食を研究している女性農家と話を交わせる機会を得ました。彼女が、今回の砂糖を口にした途端、発した言葉は…。

「私が幼いころに、おやつとして親しんでいた『がに』の味、そのまんまね」

えっ? 「がに」って、いったい何?

聞けば…種子島の農家はその昔、採れたばかりのさとうきびを集落ごとに搾って焚いて、結晶化まではいかない蜜の状態のものを、集落の子どもたちに振る舞っていたのだそう。その蜜を「がに」と呼んでいたそうです。

「いまではそんな文化も廃れてしまったけれど…」

その「がに」は、女性農家の記憶によると、実にまろやかで、食べたら止まらなくなるものだったそう。甘いけれども、その甘さがきつくない。砂糖とは植物から生まれた存在であることをはっきりと理解できるような味わい。
この話を私と一緒に聞いていた大東製糖種子島の社長は、相当に驚いていました。

「全く新しい砂糖を作ろうと、ここまで奮闘してきたら、かつてこの島に存在していた『がに』にたどり着いたのか…」

これ、実に面白い話ではないかと、私は感じました。
これまでなかったような、超上質で、しかも、さとうきびの味わいを極限まで生かした砂糖を作ろうと、やれることすべてをやって、そうして試作品が完成した。でもそれは、いまでは廃れてしまった、かつての島の食文化のひとつである「がに」にきわめて近いものだった。

「島の“新旧”が、結果として出逢ったかたちとなったことに、感慨深さを覚えずにいられませんね」

私もそう思います。いつもお話ししていますが、やはり足許に宝物はあるのだということを再認識させられました。今回の場合、昔あった「がに」の再現を最初から意識して目指していたわけでは決してありませんね。でも最後には、この「がに」へと行き着いたところが、本当に興味深い。

社長は、この新しい砂糖を「雅二扇(がにおうぎ)」と名づけました。

「がに」はもちろん、女性農家が思い出してくれた蜜の呼称です。そして「おうぎ」は、この島でのさとうきびの俗称。しっかり育ったさとうきびの穂先が扇のようにきれいにひらくことから、そう言われているそうです。
砂糖の名ひとつにも、島への敬意を込めたのですね。

私はいま、この渾身作である「雅二扇」の味わいを生かし切った菓子を作るべく、同社の社長とともに知恵をめぐらせているところです。もちろんその素材には、種子島産の食材を取り込もうと考えています。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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