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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第32回)

ヒントは足許にある!
(さつまからすみのプロジェクト)

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

六次産業の課題点と可能性について、前回のコラムで綴りました。前回の事例を通して、大事なことがらであると私が申し上げたのは、「よそのものとは違う、必然性ある商品の開発」、そして「伝えきるための努力」であったと思います。

今回も、六次産業に関連する話を取り上げたいのですが、ひとつだけお許しください。ここから綴る事例は、私自身が企画立案や伝え方に直接関わっている案件です。自分のことを話すようで気がひけるところもあるのですが、事例としてはきっとみなさんのお役に立つのではないかと考え、お伝えする次第です。

ものは何か……。「からすみ」なんです。ボラの卵巣を干した海産加工物で、最低でも数千円、値の張るものは数万円という超高級品として知られる珍味です。ねっとりとした食感、そして言葉を失うほどに凝縮されきった旨味が、酒をぐいぐいと引き寄せる、あれですね。また、からすみって、ちょっともったいない気もしますが、細かく削ってご飯に混ぜ込むと、ぜいたく極まりない、まさに凄みのある一膳になります。

日本の珍味の最高峰と称しても過言ではないと、私は思いますね。
からすみといえば、長崎県が名産地です。長崎から台湾にかけての海域でボラが獲れるので、特産物となったのでしょう。また、東京をはじめとする大都市圏の高級料理店では、ボラの卵巣を仕入れて、独自に手作りするところも少なくありません。
この原稿を綴っているのは2019年の10月半ばですが、いいボラが揚がるのが、この時期から晩秋にかけてのタイミングです。そして加工を経て、みなさんの口に入るのは年末から正月ごろとなります。

今回の話の舞台は、鹿児島県の南さつま市です。薩摩半島の外海側に位置しており、東シナ海の終端に面している地。
私がこの南さつまを最初に訪ねたのは2014年のことでした。知人の地域活性化コンサルタントから「この地域の課題点と打開策を、一緒に考えてほしい」と声をかけられ、ビジネスとしてではなく、手弁当で足を運びました。個人的にも興味のある案件だったからです。

九州新幹線が全線開通して、鹿児島県は大いに盛り上がっていましたが、当時、南さつまに限って言えば「新幹線の開通効果に乏しい」という声が地元から上がっていたと聞いたのです。なかでも、地域産品づくりに苦心している、とも……。
では、一緒に行ってみましょう、と現地を訪れたんです。

なぜ、からすみをつくらない?

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

数日にわたって、南さつまの各所を見て回りました。ある早朝、私は笠沙(かささ)という、ちいさな漁港に向かいました。背後は小高い山、眼前には美しい海。これはいい魚が揚がるだろうなと期待して、船に同乗しました。そしてやはり良質の魚が定置網にかかっていました。

陸に上がった後、当時の漁協組合長に話を聞きました。鮮度のいい青魚を使って佃煮をつくるなどの計画が上がっては消え、という状況だそうです。ただ、私はそのプランにはあまり惹かれませんでした。こう言ってはなんですが、よそでも取り組んでいるような話だったからです。ほかならぬ笠沙で、という必然性をそうは感じなかった。
ひととおりの話を聞き終わって、「産品づくりへの、いい打開策は見つけられなかったなあ」と残念に思っていました。で、漁港から次の取材先へと向かう寸前の立ち話でのことだったのですが…漁協組合長が、ほんの世間話といった感じで、こう口にしたんです。

「そういえば、この笠沙って、すごいボラが揚がるんですよね。漁師が密かに刺身で食べるようなほどの」

あっ!と私は思いました。だったら、やり方があるじゃないかと。
ボラというのは、港のセリにかけても、普段はたいした値はつきません。磯に根付くようなボラが多くて、身肉ににおいがついているのが常のために、引き合いがないんですね。でも、笠沙のボラは、魚のことを知り尽くした漁師が刺身で食べるほどに、とびきりの質だという話なわけです。それって、よほどのボラですよね。

ならば、手があります。私はそのとき、結構な大声で伝えたと記憶しています。

組合長! からすみをつくりましょう!

漁協組合長の反応は……。

「いや、実は、戦前(第二次世界大戦の前の時期)までは、笠沙でからすみをこしらえていたんですよ。ただ、つくるのは、かなりの手間ですから、戦後を迎えるころからは、塩漬けした状態のボラの卵巣を、長崎や東京に送るようになったんです。今もそう」

そう聞いて、私は言葉を重ねました。

「いや、それはもったいない。漁師さんが刺身で食べるほどのボラなら、からすみの材料になる卵巣もまたとびきりに違いないですよね。海産物は『旅をさせては価値が半減する』と思います。せっかくの卵巣なのだから、この地でからすみにしないといけない」

すぐに私は、漁協組合長、地元商工会議所の事務局長、そして地元の日本料理店のご主人と話をする場を設けてもらうことにしました。日本料理店のご主人は、常連客のために、少量ではありますが、からすみを毎年つくっている方でした。

「笠沙」の存在を訴求する

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

改めて、じっくりと話を聞くと、笠沙のボラ、そしてそのボラの卵巣は、確かにべらぼうな質を誇るものだとわかりました。
美しい海を回遊する笠沙のボラは、やはり質が全く違うそうで、生臭さがみじんもないと言います。漁協組合長はこう表現しましたね。「アスリートのようなボラなんです」。

笠沙でのからすみづくりは明治期以前からあったそうなのですが、からすみというのは、血抜きなどの下ごしらえから、塩漬け、乾燥と、完成までに実に手間のかかる作業を要します。だから、戦後から長らく途絶えてしまったそうです。

でも……。漁協組合長も、日本料理店のご主人も口を揃えます。

ここでつくったほうが、絶対にいいからすみになる

どういうことか。揚がったボラから卵巣を取り出して、それを塩漬けだけ施して長崎や東京に運ぶより、ここですぐさまからすみづくりをしてしまうほうが、最小限の塩で済むというのですね。それによって、仕上がりはより美しくなり、口上がりもより滑らかなものになるのは間違いないらしい。

「だって、朝に水揚げして、その当日昼までには下ごしらえできるわけですから」

つまり、もし、この地でそのまま加工までを手がければ、ものが違う、しかも加工までの時間も違う、という話になる。まさにベストの質のものを、ベストな工程で生かすことができるわけですね、

もうひとつ、私の頭には考えがありました。

「よその地に卵巣を運んだところで、『笠沙』の文字はどこにも出ない」

それを避けたいという思いです。もちろん、原料供給地であることにも価値はあると思いますが、それでいいんですか、という話です。せっかくに凄い素材があるのだから、それを生かした産品づくりをせねば……。
ヒントは足許に必ずある。これは私が常々感じていることなのですが、このボラの卵巣など、まさに、足許にある宝物だ、と思いました。しかも、古くにはからすみづくりの歴史まであったというのですからね。

その伝え方では「必然性」が薄い

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

そして、2015年から2016年にかけてのシーズンに、笠沙のボラを使ったからすみづくりが本格立ち上げとなりました。
完成したものを口にしたら……。いや、これは凄まじかった。ひとくちで酒がぐいぐいと進む。官能的な味わいとはまさにこのこと、という印象でした。

しかし、ここで、どう伝えるかの問題が当然出てくるわけです。
相当なまでに食に聡い人だって、おそらく南さつまの笠沙のからすみと言われて、ピンと来ることはまずないでしょう。からすみといえば長崎。だから、極上物の原材料は長崎に集まると考えるのは不思議ではない。
無名の笠沙は、そこにどう立ち向かうのか。そこが問題です。

当初、商工会議所がアピールのために作成したPR素材に書かれていたのは……。

さつまからすみは、

薩摩半島の南西部にある

南さつま市笠沙の定置網で採れた

ボラを原料にしています

これだけだったのですね。全くもって駄目だと、私は思いました。だって、わざわざ笠沙のボラの卵巣を、ほかならぬ地元で加工する意義や価値が、全然伝わりませんから。
広く伝えるべきは、「なぜ、ここで?」の必然性です。

PRの文面をすべて書き換えましょう、すぐに!」

私はそう強く求めました。すぐさま変更した文章の一部を紹介します。

東シナ海に面した

笠沙の定置網に入ったボラは、

外海のボラなので臭みがなく、

定置網の漁師の間では

密かに刺身にするのが定着しているほどの

極上物です。

鮮度保持の関係で

市場には出ていませんが、

刺身で食べられる品質があります

つまり、笠沙のボラがとびきりであること、特別であることを真っ先に伝えるようにしたのですね。そして、地元で加工して出来上がったからすみもまた、とびきりであることを消費者に想起させた。
ここ、意外と、忘れられがちな部分なんです。とても大事なのに……。要するに「いいものさえつくれば売れる」のではなくて、「どうしていいのかを伝えて、初めて売れる」わけです。

2016年に発売となったからすみは、ひと腹あたり15000円〜3万円ほどの値付けながら、わずか1カ月で完売となりました。そして翌年以降は増産となっています。

「いい」と「すごい」の差

ヒントは足許にある!(さつまからすみのプロジェクト)

ちょっと話が横道にそれます。私、先日、北陸地方の老舗の日本酒蔵の蔵元と歓談する場面があったのですが、そのとき、蔵元が語った言葉が印象的だったんです。

「『いいもの』というのでは、まだまだなんです。『凄いもの』の領域に到達しないといけない」

では、「いい」と「凄い」を分けるものとはなんなのでしょうか。
蔵元はこう説明してくれました。

料理屋さんと一緒です。美味しい店はたくさんある。でも心に残る水準までの店はそうないでしょう。

少しわかった気がしました。ただおいしいね、と思わせるのではなくて、凄みを感じさせるところにたどり着いてこそ、人は繰り返し、そこを訪れたり、購入したりするわけですね。

話を戻します。笠沙のからすみは、私個人としては、もうすでにすごいと思わせる水準に達しているとも思いますが、でも、もっともっとできることはあるはず。そしてそれに着手すれば、誰もが凄いと驚く域に到達できるかもしれない。

そこで、この秋、私は笠沙の皆さんに相談しました。「いい」から「凄い」への高みに向かうために何ができるか。

「金庫網を設置しましょう」

それが、前・漁協組合長の答えでした。普通の定置網ではなく、専用のちいさな網(定置網の100分の1の容積です)を仕掛け、からすみの材料にするためだけの目的で、さらに上物のボラを狙うというのです。とびきりの魚がかかるから金庫網といわれているそう。

今シーズン、金庫網にかかった、“トップ オブ トップのボラで、からすみを仕込みます。これにより、「凄い」の領域に挑みたいと思います。

北村 森

北村 森

商品ジャーナリスト
サイバー大学IT総合学部教授
(元・日経トレンディ編集長)

PROFILE

富山県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。

月刊誌「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立。
以来、商品ジャーナリストとして活動。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析、地方自治体や商工団体と連携する形で地域おこしのアドバイザー業務に携わっている。
2015~2016年、第1回「だれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」(東大阪ブランド推進機構)の総監修を担当し、全国からの反響を呼ぶ。
著作である『途中下車』は、2014年にNHK総合テレビにてドラマ化された。
2017年にはサイバー大学IT総合学部教授に就任(地域マーケティング論)。

中日新聞/東京新聞「北村森のモノめぐり」、婦人公論「女の気になるキーワード」、家電批評「北村森のヒット商品虎の穴」、FCC REVIEW「旗を掲げる! 地方企業の商機」などの連載コラム執筆に携わるほか、NHKラジオ第1「Nらじ」など、テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター、ゲスト出演多数。

日本マーケティング協会 マスターコース講師(マーケティング・コミュニケーション)
MM総研大賞 審査委員
富山県 推奨とやまブランド ものづくり部会 審査委員
特許庁 地域団体商標広報企画 ワーキンググループ委員

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