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実例から学ぶ! 中小企業マーケティングの新鉄則(第3回)

「過剰品質」が中小企業の武器になる!(久米繊維工業株式会社)

「過剰品質」が中小企業の武器になる!(久米繊維工業株式会社)

1枚のTシャツが、税別1万1000円。

海外の高級ブランドの話ではありません。東京都の墨田区に本社がある久米繊維工業の手になる「色丸首」という商品の販売価格です。
 
そんなべらぼうな値段のTシャツに人は振り向くのか。いや、これが2000年代半ばの登場以来、ロングセラーとなっているんです。カラーリングやサイズを拡充しながら、ずっと売れています。

誰が買うのでしょう。私の知るところでは、たとえばアルマーニやヒューゴボスなどの上等なジャケットに合わせるインナーとして購入する男性の話も聞いていますし、面白いところでは、内装工事に従事する職人が仕事着として使っているというケースもあるらしい。後者の話を職人本人から教わったときには、私自身驚きましたけれどね。1万円を超えるTシャツを仕事で普段使いするのか、と。
 
仕立てが凄まじくいいし、なにより生地が柔らかくて着ていて疲れない。だから、プライベートでのここぞという場面でのコーディネイトにもいいし、緊張続きの仕事に携わる職人にとってはこれでなくてはという作業着として重宝されているのでしょうね。
 
久米繊維工業は1935年の創業。1950年代に国産で初のTシャツを作っています。そのときの商品名が「色丸首」だったそう。その名前を冠したTシャツを21世紀に入って復刻したわけですが単なる復刻ではなくて、棉花選びから、編みたて、染色、縫製まで、21世紀の段階でできることをすべて再検討して、最新版「色丸首」を完成させたと聞きました。

値段ありきの商品ではない

「過剰品質」が中小企業の武器になる!(久米繊維工業株式会社)

同社が製作・販売している国産Tシャツの中心価格帯は、1枚2000円台です。

なあんだ、「色丸首」は、久米繊維工業の技術力を誇示するためだけの、いわばショーケースに収めんがために作るサンプルのような超高級Tシャツにすぎないのでは? というふうに思われるかもしれませんね。

いや、そんなことはありません。先に触れたように、ちゃんと売れているわけですから。
ここで大事なのは、「先に値段ありき」の商品ではなかったという点です。ほかの商品分野で、ときおり見かけることがありますよね。「1万円の◯◯」「5万円の◯◯」といったふうに、常識はずれの高価格設定をもって話題を呼ぼうとするような商品事例を……。それらとは開発の出発点からして、どうも異なるらしい。

久米繊維工業は復刻版「色丸首」の開発にあたって、伝統の技と最新技術を掛け合わせると、国産Tシャツとしてどこまでのものを創り得るかを追求しようとしたそうです。その結果1万1000円という価格になった、というだけの話。

ここは極めて重要なポイントであると、私には感じられました。この連載で前回、1本3480円のトマトジュースが実に1年待ちの人気、と綴りました。

確かにその値段のインパクトをもって、多くの消費者が目を向けたという事実はあるでしょう。でも、このジュースの作り手は、決して価格ありきのものづくりを志向したわけではなくて、トマトジュースとはどうあるべきかという旗を掲げて製法を吟味し続けた結果、3480円という値段設定に行き着いた。

今回紹介するTシャツの「色丸首」もまさにそうで、1万円超という衝撃度をマーケティングに利用したわけではない。そうではなくて「できることをし尽くす」商品づくりをもってしてそれを世に問うた、という流れでしょう。

日本のものづくりは「過剰品質」にあり? 

なぜ私がそう言い切れるかというと、同社の経営者の言葉がものづくりにおけるひとつの核心を突いていると思ったからです。紹介しましょう。

「日本のものづくりの定義は過剰品質です」。「過剰品質は目に見えない部分にも気が配られている」。そして「過剰品質を裏付けているのは、過剰な愛情」。

私はこの発言に膝を打ちましたね。実際「色丸首」は、過剰品質の最たる部類といえそうな商品ですし。

過剰品質という考え方はこの20年ほど、ややもすればマイナスの意味で捉えられてきた印象があります。グローバリゼーションが進むなかで、そんな細かなところまで力を入れていては商品の競争力はむしろ削がれる、というふうに。

でも、すべての商品が世界規模で戦っているわけではありません。過剰品質こそが武器になる商品領域というのは間違いなく、今も存在するはずです。
たとえば……街場にある個人経営の和洋菓子店。
大手どころのコンビニエンスストアがこれだけスイーツに力を入れて商品展開しているなかでも、ちゃんと残っている店舗がありますね。
そうした和洋菓子店を覗いてみると案の定、過剰品質型の商品づくりが徹底されています。少し考えれば判る話です。
そうでもしないと、安くて美味しいコンビニが繰り出すスイーツに対抗できないでしょう。

量産を背景にした価格競争に挑みづらい中小企業では、この過剰品質という考え方は、確かに生き残りのうえで有効となり得るわけですね。

普及価格帯のTシャツも「過剰」だった

ならば、価格政策を無視して、とにもかくにも値の張る商品をこしらえればいいという話なのか、と訝しく感じる人もいらっしゃるかもしれません。

久米繊維工業の国産Tシャツをつぶさに見ていくと、過剰品質志向であるのは実は1万1000円の「色丸首」だけじゃないんです。
1枚2000円台半ばの商品からも、過剰品質を感じ取ることができる。ここがポイントではないかと思います。

どんなところが?
2500円の「楽Tシャツ」を例にお話ししましょう。まず、カラーリングにはわざわざ和の色を採用しています。藍鉄、山吹、砂色、白杢といった具合です。
で、着ているときには決して意識しない部分にも、まさに気が配られています。裾の内側に貼ってあるタグが妙に凝っていて所有欲をそそる。

さらに、ここが大事なのですが……1万1000円の「色丸首」は丸胴になっています。
丸編みともいわれる手法ですが、普通のTシャツであれば、脇の下から裾にかけて縫い目があるじゃないですか。それがない。Tシャツ全体が筒状に編まれているのです。
だから着心地はいいし、型崩れしにくいし、耐久性も備わる。
この丸胴、2000円台の商品でも同じように採用されています。これにはちょっと驚きました。コストが相応にかかりますからね。

どうして普及価格帯の「楽Tシャツ」でも丸胴にできたのか。
同社の会長はいいます。
「ひとつは、原材料の仕入れを商社任せにせず、ある程度は自律的に担うことでしょうね」

それにより原価は一定に抑えられます。ただし、それだけではないらしい。

マーケティングコストが低減できる

「過剰品質」が中小企業の武器になる!(久米繊維工業株式会社)

会長の言葉を続けましょう。

もうひとつ大きいのは、過剰品質型の商品づくりをなせば、結果としてマーケティングコストは低く抑えられるから

と力説します。

どういうことか。
Tシャツという分野は、業界内で「裾もの」と呼ばれ、とかく低価格競争に陥りがちだそうです。新商品を投入してもたいした時間を経ずに、値下げ商品として店頭で安売りされてしまう。だから、あらかじめ値下げを見越した価格設定にしなければ商売が成り立たないので、製造原価はおのずと抑えられてしまう。

だったら低価格競争に巻き込まれない、つまりは陳腐化が進まない商品づくりに邁進するしかないというのが、久米繊維工業の考え方だそうです。
長い期間、価格を保てるTシャツづくりを徹底すれば、製造原価をある程度かけても成立するということですね。

そんな簡単にいくかよ、と思われるかもしれません。
Tシャツなど、安価な輸入ものが大量に販売されている分野ですからなおさらのことです。

でも、事実として久米繊維工業はTシャツの国内生産を貫き、しかも値崩れを防いだまま、経営を成立させています。
そこに大きく寄与している要素がすなわち過剰品質志向である、と理解することはそう難しいことではないと私は感じていますが、いかがでしょうか。

「100万人」ではなく「100人」を追う

「過剰品質」が中小企業の武器になる!(久米繊維工業株式会社)

過剰品質志向を徹底して、なおかつ経営が安定していることを別の角度から見ると、次のように捉えもできます。

久米繊維工業は、言ってみれば「100万人」の顧客を追いかけていないスタイルの経営姿勢を取っています。そこが大手のファストファッション系の企業とは異なるところ。
中小企業だから当たり前だろうと思われるかもしれませんが、数を追わないものづくりに躊躇せず舵を切るというのは、経営者にとって重大な判断であると想像できます。
でも、同社はそれをやっている。

同社の会長は「この時代、『100人』を相手にしたものづくりが成立する」と断言します。つまり「こんな商品、欲しいですか」と消費者に訴え、それに呼応した客の数だけ、生産をなす。
これならば、過剰投資や余剰在庫のリスクは抑えられますね。

そんなことが可能なのか。SNS全盛の現在であれば、なしえる話でしょう。
クラウドファンディングなどは、まさにそうしたスタイルの実現を企業にもたらす仕組みですし。

そのために必要なのは、「消費者が『待ってくれる』商品を発想することが大事」
とも会長は語ります。
そうですね、待ってでも欲しい商品でないかぎり、よその店で似たようなものを買ってしまいますから。その意味でも、過剰品質は大事になってくる。こうやって順に考えていくと、過剰品質型のものづくりが生産規模の大きくない中小企業で重要になってくることがお判りいただけるかと思います。

とりわけ久米繊維工業の場合、生産規模がものをいうと当然のごとく思われていたTシャツの分野で「過剰品質志向による好循環」を果たせているのが、実に痛快な話だと感じましたね。

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